本と音楽の素敵な関係

2013年1月 4日 11:33


ずいぶん前に映画と音楽の素敵な関係なんてコラムを書きましたが、今回は正月の少しのんびりした気分で、本と音楽の素敵な関係について書きます。

音楽がとても重要な要素になる小説は多々あります。有名どころでは村上春樹の『1Q84』のヤナーチェク「シンフォニエッタ」や伊坂幸太郎の『ゴールデンスランバー』、『アヒルと鴨のコインロッカー』のビートルズの同タイトル曲やボブ・ディランの「風に吹かれて」等がありますが、昨年読んだ本の中からは例えば大竹聡著『愛と追憶のレモンサワー』なんてのがあります。

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酒飲みにはたまらない雑誌「酒とつまみ」を創刊した作者による自叙伝的小説ですが、ストーリーはほぼ同世代の自分には先を読むのが身につまされ過ぎて辛いほど。主人公ジローの語り口調が哀切に拍車をかけます。その話の後半でふと場面が暗転してスポットライトに弾き語りのシンガー千賀かほるが現れるように、名曲「真夜中のギター」の詩が綴られます。このストーリを音で奏でる物悲しくも味わい深いシーンで、この物語の音色やトーンが見事にまとまって行きます。

http://www.youtube.com/watch?v=OvEG612T8ZM
真夜中のギター 千賀かほる

つぎに紹介する『陽だまりの彼女』は今年映画公開もある話題作。甘々の恋愛小説かと思いきや、ミステリーのような様相を呈していき、さらにファンタジーへ向かって行くのかという、ジャンル転換のマジックにワクワクしていく物語。これから読む人もいるかもしれないので、ネタバレはあまり言えませんが、甘ったるい新婚の二人の会話が続きそれが途中からだんだん、おや?これはまさか、あっちの展開かと思い始め最後そこに降りたかー、ってのが最初の読後感で納得がいきません。で検証のためもう一度最初から読んだら意外にも、もう巻頭から全ての伏線が琴線に触れまくり涙腺緩みまくりで、吉祥寺のルノワールで周りの他のお客さんから涙を隠しながら読むのに苦労しました(笑)。ストーリーとテイストにはくせがあるので、賛否や好き嫌いが相当分かれると思います。また結末から最初の景色が変わる物語は最近無いではない展開ですが、この本がそんなストーリー展開に勝るとも劣らない魅力を放つ要素は、主人公の彼女がビーチボーイスの「素敵じゃないか」をキーソングとしていつも口ずさむこと。

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素敵じゃないか ビーチボーイズ

彼女はビーチボーイズのブライアン・ウィルソンがいかに音楽史上重要なアーティストかと大絶賛します。そういえば「ペットサウンズ」って当時の音楽誌や評論家にサイケデリック・ロックの名盤等と評され、これは聴かないとと何回かトライしてみたけど、何だか全体的にぼんやりと感じてピンと来ず、自分には分からないアルバムなんだと思い込んでいたのを思い出しました。この本をきっかけに、もう一度聴き直してみようと思い、村上春樹氏が翻訳したペットサウンズの解説本もあるのも思い出して早速、図書館で借りて(大体どこの図書館にもあります)この機会にそれを読みながら聴き直してみました。本にはアルバムが出来るまでの彼の身の回りの出来事や、当時の音楽シーンや業界の状況と共に、各曲の解説がなされており1曲1曲と向き合ってじっくりと聴くことが出来ました。そうすると、このアルバムが何故名盤とされているのか、素晴らしさが次第に分かって来るではありませんか。演奏、アレンジ、詩、メロディーどれを取っても、彼にしか出来ない世界観、空気感があることを再認識。しかもほとんど半世紀前の音なのに、全然古く感じない不思議さがあります(むしろ学生時代に初めて聴いたときの方が古臭く感じていた)。

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本のエピソードで最も興味深いものは、ロンドンでザ・フーのキース・ムーンがいるホテルに、たまたまジョンとポールが遊びに来て、キースがちょうど持っていた発売前「ペットサウンズ」のサンプル盤をかけてみたら、それまでちゃらちゃらと冗談を言い合っていたジョンとポールは打って変わって真剣な表情になり各曲の仔細を検討し始め、さっそく新しいアルバムの制作に取りかかったそうです。そして生まれたのがロックアルバムの金字塔と言われる「サージェント・ペッパーズ」なのでした。この2枚を対比してみると、いかに「サージェント・ペッパーズ」が「ペットサウンズ」から影響を受けたが今更ながら良くわかります。「サージェント・ペッパーズ」ですら、当然ですが模倣や影響からの創作なんですね。ちなみに、それ以前に「ペットサウンズ」はイギリスから遠く離れた西海岸でブライアン・ウインルソンがビートルズの「ラバーソウル」を聴いて衝撃を受け、それを超えるものを作ろうと着想したそうです。 

「サージェント・ペッパーズ」は発売当初から彼らの最高傑作と評され、セールスももちろん素晴らしいものだったのに対して、ペットサウンズは当時本拠地アメリアで評価されずセールスも悪く、彼はがっかりして精神も病んで行ったそうです。しかし作品として今考えると「サージェント・ペッパーズ」は今日、アルバム通して1枚で聴こうとはなかなか思わないけど、「ペットサウンズ」は半世紀近く過ぎた今でも1枚で通して普通に聴く耐性を持っていると、村上氏もあとがきで書いてました。確かにそんな作品だと思います。

本や映画、アートでも、その時代や年齢では今ひとつぴんと来ない作品も時代が変わり、年も重ねて体験すると心に染入ってくる作品は数多く存在します。まさに温故知新ですね。
年明けのんびり気分もまだ少しある今時にそんな未体験や再体験で名作に触れてみるのは如何でしょうか。
そして新たなストーリから改めて名曲を聴いてみるのも、また楽しい音楽の聴き方の一つなんだと感じた読書体験です。
text by Akira Aratake

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