shop33とその後の物語 第二回 ステロタイプ 児玉健一 vol.5
2018年8月26日 12:00
「ステロタイプとshop33のその後の物語」最終回となる今回は、90年代と今のカルチャー、そしてその後の物語について大いに語り合いました。
前回の様子はこちら。
◆駄菓子屋とshop33
荒武 最近寝る前にTBSラジオを聞いてるんですけど、そこで興味深い話があって。子ども食堂って知ってます?
児玉 なんかテレビで見たことがあるような...。
荒武 今ってやっぱり貧富の差が激しいので、お昼も満足に食べれない子たちが何十万か何百万か数字は忘れてしまったんですが、そういった規模でいるらしいんですよ。それで今の子ども達は家庭と学校しか行く場所がないから、そこの中で食事をするってことが困難な子たちが多いらしいですね。だからそれをなんとかしたいっていう人たちがいて、家庭と学校以外に子どもが来られる場所を作ってそこで食事をとってもらえる場所を作っているみたいなんですね。それは地域だったり個人だったりで、みんな自主的に動いてるみたいなんですよ。
荒武 そこで考えたんですけど、やっぱり第三の場所って必要なんだと思うんですよね。例えば昔であれば駄菓子屋のおばちゃんみたいな感じで。別の社会があるっていうのを知るという感じ。でも、今って大人もそうな気がするんですよ。例えばサラリーマンだったら会社と家庭の往復だけだったり。やっぱりそれってしんどいと思うんですね。だから、そういう意味では僕にとって飲み屋が第三の場所として存在してたんですよね。それで、もしかすると33に来てくれてた方々も、そんな第三の場所として来てくれていたのかなと。
児玉 それは絶対にあると思いますよ。僕らにとっても33は特別な場所でしたね。用事がない時でもフラーと立ち寄れる場所でしたし(笑)。何かやりたいとか思うと荒武さんに相談してみようって感じでしたから。
荒武 僕も児玉くんとイベントやりましょうみたいな話をするじゃないですか。それが楽しかったんですよ。だからそれがあったからやってたっていう気がしますね。
児玉 本当に色々なことをご一緒しましたよね。お互いに「こんなことやろうと思うんですけど…」「おもしろそうですね、一緒にやりましょう!」みたいな感じで、大体がとりあえずやってみましょう!っていうラフな感じで(笑)。
荒武 それはただの商売を超えたワクワク感というか、うまくいったらいったでお互い良いよねっていう感じでね。
◆90年代と今
荒武 90年代には洋服を作られてきたじゃないですか。今の仕事もその延長線上ではあると思うんですけど、でも少し形を変えていらっしゃるじゃないですか?それって年令とともに変化していったものなのか、それとも時代に即して変わっていったのかなのか、一番の要因って何だと思います?
児玉 今も昔も変わっていないことはデザインの仕事をしているということですね。グラフィックデザインで色々やってきた経験を活かして、時代の流れとともに変化してきたように思います。20代の頃は音楽とファッションが大好きで、そんな仲間が集まって好きなことをやってた感じでしたけど、2000年代のiPodやiPhoneの登場やユニクロの台頭などで音楽やファッション業界が激変していく中で、自分たちも活動するフィールドを変えていかなければ時代を生き抜いていけなかったように思います。自分も40代になって、昔のように自分たちの好きなことだけを仕事にするみたいなことよりも、ステロタイプのメンバーが活躍できる環境やきっかけをつくるようなマネジメントや経営の仕事の方をしっかりやらないといけない年齢になってきましたしね。
荒武 わかります。なんでこんな質問をしたかというと、この対談をやっていく中でいろんな方に聞いてみたいこととして、90年代ってカルチャーが花開いた時代だったじゃないですか?これは自分が歳をとったから感じづらくなっているだけなのかも知れないけど、今ってカルチャーの成熟感というか閉塞感みたいなものを少なからず感じて、あまり新しい感覚が少なくなってきていると思うことが多くなってきているんですよね。だからこそ、90年代にカルチャーを作ってきた方々がどういう意識を持っていたのかっていうのが少しでもわかると、それが時代の影響なのか、それとも個人の問題なのか、そういった部分も含めて、今のクリエイターへの指針というか参考になるんじゃないかと思って。
児玉 ただ単に自分たちの好きなことをやって世の中に発信したかった、その思いが強かっただけのようにも思いますし、それが仕事になればという独立心は強くありました。企業に就職するという発想がなかったですからね(笑)。
児玉 音楽が好きだったからクラブイベントをやってみたり、ファッションが好きだったからブランド(アシュラ)をやってみたら予想以上に反応があって。アシュラのTシャツを見てレコード会社やファッション系の企業からデザインのお仕事をいただけるようになったり、メディアから取材を受けるようになって。そんなことが重ねって運良く起業もできたみたいな感じでしたからね。でも間違いなく言えるのは、ポイントポイントで自分たちの未来に大きな影響を与える人や仕事に出会ってるんですよね。
荒武 そういう意味では、今の時代も起業やフリーランスって言葉が持て囃されていてどこかしら90年代と似ている部分も多いと思うんですよ。ただカルチャーに関しては90年代の進歩感とは乖離している感じもしていて。
児玉 90年代ってIT革命があって、世界的な革命が起こりましたよね。恐らく歴史的に見ても産業革命以上の大きな転換期だったと思います。そんな時代にAppleのMacintoshを購入して、Macintoshでつくったデザインをいち早くストリートに落とすことができたのは僕らにとっても大きかったように思います。
荒武 そうですよね。やっぱりWindows95とかネットの出現は大きかったですしね。だから2000年代はやっぱり停滞してましたよね。
児玉 確かに音楽とかファッションという90年代のトレンドだったサブカルチャーが2000年代に停滞した感じはありますね。ただ最近自分たちがメイン市場にしているアニメやゲームなどの分野はすごい熱いですよ。昔はオタクとか言われて世の中からも冷ややかな感じだったじゃないですか。今や若者から大人まで巻き込んだ日本が誇るカルチャーな感じですからね。時代は大きく変わりました。
荒武 この対談の一つのテーマとして、33を知らない世代の人達にも読んでもらいたいってのもあって。今までの経験だったりを踏まえて、若い人たちに伝えられることってあります?
児玉 自分次第で未来は変えられるって思います。何かしようと思って深く考えるよりもまずは行動してみる。動き出すといろんな人たちとの出会いがあったりチャンスが訪れたりしますからね。やっぱり、自ら動かなければ何も始まらないのかなと。特にクリエイターの方には楽しんで作品づくりをして、世の中にどんどん発信していってもらいたいですね。
荒武 道を歩かなければ何にも当たらないですよね。
児玉 そうですね。若い人たちにはおもしろいことをやってもらいたいです。
荒武 じゃあ個人の生き方という部分では、時代っていう大きな波とは関係なく気持ちを持って動くってことが大切ってことですね。
◆ステロタイプとshop33のその後の物語
児玉 話が少し変わりますが、33とまた何か出来ないかっていう部分で少し話をしたかったんです。33は色々な人たちが集まってた場だったじゃないですか。またああいった場所が出来ないかなって。例えばインターネットだったり、たまにリアル空間で集まったりとかもいいと思うんです。
荒武 今の時代に即した形だよね。
児玉 ファッション、音楽、アニメ、アーティスト、DJ、デザイナーとか、ジャンルや年齢とかも超えたおもしろい人たちが集う33のような場が欲しいですね。昔の自分たちがそうであったように、そこで若いクリエイターとかと知り合ったりして応援したり何か一緒にやりたいですもん。僕たち33の卒業生が集まるだけでもおもしろいことができそうな気がしますし、33というつながりも大切にしたいですね。
荒武 僕もやっていて面白かったというか、幸せでしたよ。児玉くんや森本さんと知り合えたし。森本さんと出会えたからこそ大友さんとも会えたし。何にもツテのないただの学生の頃から「AKIRA」に衝撃を受けていたので、初めて描いた本人に会った時は本当にびっくりしました(笑)。そういった磁場があるというか、人のつながりで出来ている場所だからこそ、吉祥寺っていう場所にはこだわりが強いですね。
児玉 荒武さんはきっとクリエイターが好きなんでしょうね。
荒武 そうですね、僕自身がクリエイターではないので。以前、TDRのイアン(THE DESIGNERS REPUBLICの代表)に「33はセレクトショップではなく、ライフスタイルをある感覚でまとめ上げたライフスタイルショップだ」って言われたんですよ。きっとそれはいろいろな人とのつながりで出来たものだと思うんですよね。だから、せっかくのお話ですしそんな感じで新しく動き出したいですね。
児玉 さすが校長、言うことが違いますね(笑)。
荒武 いや、でも俺じゃなくてイアンが言ったんだけどね(笑)。でもこの対談企画だけではなく、新しく動いていきたいと思ってるので、ぜひ児玉くんも協力お願いします!
児玉 ぜひぜひ!33の卒業生、みんなで協力して盛り上げて行きたいですね。またみんなで集まりたいです。
荒武 そうですね。またいろんな方と協力していただいて、また面白いことをやりましょう!よろしくお願いします!
-編集後記-
今年1月、初期33メンバーの高向さんからFacebookで誕生日のお祝いメッセージをいただいたことがきっかけで、荒武さんや33ファミリーの皆さんと久しぶりに再会して吉祥寺で飲むことになりました。そんな流れから今回の対談の話に繋がっていくのですが、対談の話もあの頃と変わらないこんなやりとりからスタートしました。「(荒武さん)ブログで対談やろうかと思ってるんですが…」「(児玉)おもしろそうですね。是非やりましょう!」みたいな昔と変わらぬ一緒にやろうぜキャッチボール(笑)。荒武さんとのこのやりとりがすごく懐かしい感じでしたし、また33さんとご一緒できる機会をいただけることが嬉しい瞬間でもありました。本当にありがとうございました。楽しかったです!
もう1つ、この場をおかりしてお礼したいことがあります。それはnext33代表の木原知明さん(ノリくん)への感謝の気持ちです。
今回の対談企画もそうですが、shop33がnext33になってからも僕にとって母校である「33」を守り続けてくれていること、そして恩師である荒武さんが病に倒れられた時も支えてくれていたノリくん。本当に感謝の気持ちでいっぱいです。ノリくんと会うたびにいつもそう想いながらも、ちゃんと言えてなかったのでこの場をかりてお礼させてください。「ノリくん、本当にありがとう!」
ということで、荒武さん、ノリくん。また飲みに行きましょう。そして、また何かおもしろいことをみんなでやりましょう!
ステロタイプ 児玉 健一
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「shop33とその後の物語 第三回」はこちら!
Photographed by Kei Murata